Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(11)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『坂をのぼれば』(1/2)

 

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『坂をのぼれば』(1/2)
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

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【画】
■タイトル(Title):『坂をのぼれば~SCENE1』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

 

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(10)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『幻夜(2/2)』

待ち合わせの時間が気になったけれど、男は時計を見なかった。
とにかく気味の悪い夜を抜け出して、早くそこへたどり着きたかった。
天変地異の前兆でも、大掛かりなドッキリだとしても、今夜の目的はひとつ。
男は走り始め、考えた。
近頃は新聞もちゃんと読んでなかったし、テレビのニュースも聞き流していた。
でも、こんな夜があるなら予告があったっていいはずだ。
避難勧告なんて無かったはず。
薄っぺらな最近を思い出そうとするが、何も心当たりがない。
自分だけのけ者にされた気分。
直ぐに走ることが辛くなり、歩く度にじんわり汗がまとわりついて重くなる。
男は走り続けた。
そして、また甦る記憶。
まだ免許を取ったばかりの頃、山道で迷い焦った夜。
とにかく脱出したくて、ただアクセルを踏んでいた。
あの時もこんな感じだった。
男は時間を確かめようとした。
開いた携帯電話は今にも眠りにつきそうな状態。
「この電池が切れたら、いったいどうなるんだろう」
待っている人のことが気になった。
いま、同じ夜の下にいるのだろうか。

男は再び走り始めた。
街は無言のまま。
連なる高層ビルはまるで断崖。
得体の知れぬ何かが降りて来るような気がして怖い。
夜を映すガラスには表情がない。
やがて息苦しさが走るペースを落とさせ、つい歩きそうになった。
それでも男は走ることを止めなかった。
待ち合わせ場所まで大通りをあと二つ。

雨が落ちて来た。
着地する場所を自分で選べないほどの小さな粒。
夜の霧雨。
わずかな風で運ばれる。
男は傘など持っていなかった。
けれど今は濡れてもかまわなかった。
音も無く服に染み入る雨。
もう月の方向なんてどうでもいい。
あのビルの角を曲がれば踏切だった。

植木の葉に留まる雨粒を見ながら右へ曲がる。
その時、男は何かに躓いた。
少しだけ盛り上がったアスファルトで左の靴底が擦れる。
そして滑った。
前方へ倒れそうになったその瞬間、目の前に光がひと筋波打った。
男にはそう見えた。
右手が、とっさにそれを掴んだ。
何かを掴むような格好で崩れる。
なんとか派手なこけ方を回避し、両手と膝を着く。
そして、瞬きをするように何度か空が光った。
それは、蛍光灯が点灯する瞬間と似ていた。

街の休憩時間が唐突に終わったかのようだった。
建物や街灯が目覚めていた。
いつもの夜が、点いていた。
男は、まだしゃがんだまま。
その横を人が通り過ぎて行く。
気がつけば電車が通過する音。
警報機の合図。

 

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四つん這いのまま見上げると、踏切で待つ人がいた。
傘を背中の方へ少し傾けている。
いつしか雨は止んでいたけれど、その人はまだ気づいていなかった。

男は立ち上がった。
停電のことを聞こうか。
それとも、もう雨が止んでいることを教えようか。 ~終わり

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『幻夜~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboにて配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『幻夜
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(9)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『幻夜(1/2)』

「またやった」
ソファに横たわったまま目を開けた男は悔やんだ。
部屋の蛍光灯とテレビがつけっぱなし。
目線より上に見えるパソコンも直ぐに働ける状態。
デスクの上は今朝のままだ。
軽やかに立ち上がった男は、すぐに時間を気にした。
急に立ち上がったせいなのか、心臓からのクレーム。
目覚めの動悸が激しかった。
左胸に何かが侵入したみたいな感じだ。
男は別の生き物によって次第に覚醒し、開けっ放しの窓にも気づいた。
約束をしていなかった太陽は、待ってくれていなかった。

夜の8時過ぎ。
いつも流しているTV番組のオープニングが聴こえてくる。
「急ご」
男は慌ただしく着替えを終えた。
そして窓を閉めて、ロックを掛けた。
二回確かめて、カーテンだけ開けておいた。
つけっぱなしだった奴らも片っ端から眠らせて、とどめにコンセントから引き離した。
いつものように神経質。
あとは部屋の灯りを消すだけ。
そうやって男はようやく安心した。
休日なのにどうしても繰り返す出勤前のパターン。
時計にばかり目がいく。
掛け時計に目覚まし時計、最後に見るのは携帯電話。
まだ間に合うことを確認すると、蛍光灯から垂れる紐に手を伸ばした。
一回引く。
二本消えた。
同時に窓の向こうの街の灯りもいくつか消えたような気がした。
二回目。
消灯。
気づけば外も同じ。
街の夜景も消えていた。
文明の灯りというものが見あたらない。
これは偶然なのだろうか。
部屋の灯りを消すのと同時に停電なんて。
たぶん、そうだろうと男は思った。
深く考える余裕はない。
携帯電話の頼りない光を懐中電灯代わりにして、男は部屋を出た。

マンションの通路も沈黙していた。
聞こえるはずの音楽も止まっている。
非常灯も点いてない。
「おかしいな」と思いながら、エレベーターではなく非常階段へ向かった。
幸い月明かりが吹き抜けに下りていて、なんとか視界がある。
四角い夜空に雲は見あたらず、男は「満月かな」と思った。
扉を開け、ゆっくりと階段を下りた。
転げ落ちないように気をつけながら足下を探る。
ようやく一階にたどり着くと、男は走り出した。
今夜は大事な約束があった。

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頼みの月は少し欠けていて、ぼんやり浮かんでいた。
信号でさえ消えていて、やはり街全体が停電しているようだった。
建物は闇にそびえる絶壁の山となり、舗道はいつもより危うい様相。
なぜか通る人もいなければ、車も走ってこない。
風は巣に戻ったかのように気配が無い。
自販機も眠るように目を閉じていて、なんとも寂しい。

男は田舎の通学路を思い出していた。
夏、カエルやヘビを踏まないように気をつけたっけ。
夜道ならなおさらで、車で通る時ですら慎重だった。
停滞する湿った空気に邪魔されながら走る男
時々歩いて、月を見上げる。
どこまで行っても街は死んでいるみたいだった。
いつもの大声や奇声が繁華街から響いてこない。
通り過ぎるヘッドライトも無いから、ゆっくり車道を横切る。
横断歩道の真ん中で止まって、振り返ることもできた。
そんな寄り道をしながら、男は待ち合わせの場所へと近づいた。 ~続く


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『幻夜~SCENE1』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboにて配信中!

 

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【画】
■タイトル(Title):『夜を点けて』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(8)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

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【作話】
■タイトル/短い物語P&D『方舟』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

※アルバム『Pride and Dust World』(電子書籍)に収録。試し読み作品あります。
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【画】
■タイトル(Title):『方舟~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画

 
 
 
☆みな様の訪問に日々感謝しております。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(7)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」
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【作話】
■タイトル/短い物語P&D『方舟』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

※アルバム『Pride and Dust World』(電子書籍)に収録。試し読み作品あります。
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【画】
■タイトル(Title):『方舟~SCENE1』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画

 

 

 
☆みな様の訪問に日々感謝しております。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(6)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『オトナガイ』

今日は新製品の発売日。
ミニチュアモデルのシリーズ。
いわゆる食玩
太陽系の九個の惑星を模した球体が一個入ったブラインドBOX。
中身は買わなきゃわからない。
全十種類の内シークレットがひとつで、冥王星も惑星として数えてるらしい。
僕は当日、近所のコンビニへ走った。

自動ドアが開ききる前だというのに、体のほとんどが店内。
年甲斐も無く弾んでいるような気がする。
まあ男なんてこんなもの。
缶コーヒーのおまけにだって誘惑されてるくらいだから。
けれど、そんな想いを塞き止めた光景。
レジ前の人だかり。
もう出勤ラッシュは通り過ぎたはずなのに。
案の定、若者、強面、連れ数人。
それ以外は外野席。
なんて狭いスタジアム。
これは乱闘前の気配だ。
男のでかい声がぶつかって店員の女の子が後ずさる。
あ、女の子か。
どこでも女性店員はなめられる。
何が起きてるのか知らないが、手を挙げることはないだろうけど。
僕の仕事場も同じだ。
ただ、気になる物が見えてしまった。
あれは僕が買いにきた商品。
なぜ3カートンも。

男たちは買い占めが目的だった。
お断りの説明に激怒しているらしい。
恫喝が続く。
見かねた僕は、軽はずみな勇気で止めに入ろうとした。
その時だった。 

視界に波が押し寄せた。
こんな時に、目眩。
そうじゃない、地震だ。
初めて外出中に体が感じた揺れ。
瞬時に僕は触覚みたいになった。
じっと目だけで状況を探ると、他のお客も油断していた様子。
そのうちに陳列棚の商品たちも騒ぎ出した。
小さな悲鳴がして、頭をかばう人が奥に見えた。
でも、この時の僕はなぜか落ち着いていた。
ここが自分の部屋だったなら、蛍光灯から下がる紐を真っ先に見ていたはず。
幸い、揺れは直ぐにおさまった。

突然の揺れでレジ劇場は終幕。
床に散乱する物も無く、静かになった。
店内に流れるCMが現実に戻してくれる。
笑顔で感想が飛び交い、にわかに僕らは繋がった。
肝心な「女性店員VS男三人」は、地震コールドゲーム
連中は諦めたらしく、数個を手にしてのお帰り。
捨て台詞っぽいのが聞こえたけれど、いつものことだと思った。

僕は一つだけ買った。
部屋の状況とか地震の規模が気になって、嬉しさはどこかへ逃げてしまっていた。
早く中身を見たいはずなのに、嫌な気持ち。
レジのシーンも何度か再生されそうだ。

その夜、僕は洗濯物を取りにベランダに出た。
近くまで来てる梅雨の匂いみたいな風を受けて、月を探した。
雲一つない夜空だったけれど、いない。
いくつか見える星をつなぐこともできなかったけれど、輝きを見つけた。
ふと見下ろした時に、街の大型ビジョンに流れていた言葉。
「君から気づいて、少しずつでも」
その言葉を想いながら部屋に戻ろうとした時、遠くの空が一瞬だけ光った気がした。
雷とは違う色。
体に悪そうな赤。
しばし耳を澄ます。
気のせいだったのか。

 

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明日の未明、ニュースで新しい島の誕生が世界に知れ渡る。
場所は太平洋の中心。
どうやら地震の影響らしい。
不思議なのは、十数個の細長い島が並ぶように隆起しているということ。
上空から衛星が撮影した写真も公開されて……誰もが思ったに違いない。
「これってバーコードだよね」

人類は知らない。
もうずっと前から目をつけられていたことを。
太陽系は大人気。
まして地球はレア。
人類は幼いから、こんな買い方はできない。

いつまでもこんなんじゃタメなのに、街はどこも危うく騒がしい。
だから僕は祈る。
自分の都合で祈る。
誰に祈ったかは、想像にお任せします。  ~終わり

 

 


【作話】
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■タイトル/短い物語P&D『オトナガイ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

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【画】
■タイトル(Title):『オトナガイ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)

※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。/物語はKindleKoboにて配信中!

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(5)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『カクタス~SCENE2

 

どれくらいの時が砂を運んでいっただろう。
風の通り道が繰り返し描かれ、カクタスの影も動いては消えた。
そんなある日、カクタスの前に男が現れた。
喉の乾きに負ける一歩手前。
その場に倒れた男の右頬にトゲが刺さる。

すると、カクタスの中に男の気持ちが流れ込んで来た。
怖いくらいの勢いで。

 

嘘の厚み。

 

不平不満の日記。

 

普段着のような見えない刃物。

 

もう子供じゃない。

 

でも大人ともいえない。

 

カクタスは知った。
男は自分を戒める旅の途中なのだと。
まるで誰かの身代わり。
カクタスは全身で伝えた。

 

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『死んじゃだめだ』

男は残る気力でカクタスに手を伸ばした。

泣かずに溜まっていた涙は、旅人の喉を潤した。

それはもう濁ってなどいない。  ~完  


【作話】
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■タイトル/短い物語P&D『カクタス~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

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【画】
■タイトル(Title):『カクタス~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。

 

☆みな様の訪問に日々感謝しております。