Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(25)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『50世紀』

 

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『50世紀』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『50世紀~SCENE1&SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

 

 

 

☆みな様の訪問に日々感謝しております。

 

 

■制作依頼を承っております。

『ご依頼いただいた皆様へ……誠にありがとうございます。感謝!!』

 

電子書籍配信中!試し読み作品あります。

アルバム『Pride and Dust World』 ■著書販売中!!

9.11以降、3.11以前の混沌から生まれた物語~

『人生の途中にあるトンネル。そこでは稀にの秘密が語られる』

絵本『BLUE AND THE MOON

環樹涼 著/2007年8月25日刊行

販売価格¥1,000(税込)

現在、Amazon にて販売中。 著者の管理する在庫から発送いたします。

 

~自分相応の言葉~

『吹けば舞うよなにも誇りがあります』

$Pride and Dust World

詩集『埃、咲き誇るために』

環樹涼 著/2007年11月1日刊行

販売価格¥700(税込)

現在、Amazon にて販売中。 著者の管理する在庫から発送いたします。

 

※著者に直接ご注文いただいた場合は送料無料です。 ご注文方法はお問い合わせ下さい。

 

■『短い物語P&D』のSCENEを描いた絵画を初ポストカード化

『かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがあります』

※絵と対になる物語は電子書籍にて販売中。アルバム収録。

ポストカード『Tug Of War~SCNEN1.2.3』

環樹涼 /2014年:販売価格¥100(税込)

市場に流通していません。 著者の管理する在庫から発送いたします。 まだ在庫あります。 送料は無料です。 ご注文方法はお問い合わせ下さい。

 

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since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(24)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
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■短い物語P&D『サヨナラ』

「流れ星」
つい口から出てしまった少年。
顔の前で控えめに空を指差さした。
一瞬で消えてしまったから、近くにいたもう一人には見えなかった。
その男は空を見上げたが、願い事について話すことはなかった。
静かに話し始めたのは、全く別の話だった。

「お前が見たのは、あれはボールだよ。太陽系の外から飛んできたんだ。流れ星の正体は、実は神様が打ったホームランだ」
少年は黙って聞いていた。
もちろん作り話だと分かっている。
巷に神が溢れる時代だから、特に惹かれる話しではなかった。
「神様も野球をするんだ。時々、集まって試合をしているらしいよ。今夜はどのあたりだろう。宇宙に浮かぶボールパークに屋根は無いから、宇宙望遠鏡なら見えるかもしれないな。地球雨よりより進んだ文明の異星人なら、VIPシートで観戦してるかもしれない」
男に野球の経験があることを少年は知っている。
けれど、こんな話しをするのは珍しい。
少年は話しの仕入れ先が少しだけ気になった。
そう思いながらも、続いていく話しに耳を傾いた。
「場外ホームランは流れ星になる。でもあれは、特別な力で打ったんじゃないんだ。神様たちも練習をして、努力を積み重ねた結果、打つことができたんだ」
神様が練習とか努力?
否定したら話は終わってしまうと思いつつ少年は頷いた。
次の流れ星に期待しながらも、二者連続は難しいだろうなと思った
けれど、神様ならホームランどころか打率十割だって簡単なはず。
練習するとしても直ぐに上達するだろうし、すでに上手いなら、神技を生み出してもおかしくない。
少年の想像は少しずつ妄想へと移りながら、最後まで一言もしゃべらなかった。
ずっと黙って聞いていた。
時々空を見上げた時、今夜の星は騒がしい気がした。
「そろそろ引き上げようか」
男が言った。

 

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僕は我に帰って反射的に釣り竿を引く。
この時、僕は考えていた。
少年の頃、父とこんな話しをしたことがあっただろうか。
場外へ消えた白球。
それが、地球まで届いた。
あれはサヨナラホームランだったのかもしれない。
サヨナラ勝ちならいいけれど。
人は生きているだけで、サヨナラしなければならないことが多過ぎる。
なんて思った僕は、もう少年ではないけれど、大人ともいえない。
気持ちのいい潮風が吹いて来た。
今夜は何も釣れなかった。 ~終わり・

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『サヨナラ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『サヨナラ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

 

 

 

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9.11以降、3.11以前の混沌から生まれた物語~

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絵本『BLUE AND THE MOON

環樹涼 著/2007年8月25日刊行

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~自分相応の言葉~

『吹けば舞うよなにも誇りがあります』

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詩集『埃、咲き誇るために』

環樹涼 著/2007年11月1日刊行

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■『短い物語P&D』のSCENEを描いた絵画を初ポストカード化

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『吹けば舞うよなにも誇りがあります』

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詩集『埃、咲き誇るために』

環樹涼 著/2007年11月1日刊行

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■『短い物語P&D』のSCENEを描いた絵画を初ポストカード化

『かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがあります』

※絵と対になる物語は電子書籍にて販売中。アルバム収録。

ポストカード『Tug Of War~SCNEN1.2.3』

環樹涼 /2014年:販売価格¥100(税込)

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since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(23)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
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日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
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■短い物語P&D『今日の行方』

僕の仕事帰りは、もう長いこと朝。
今朝もいつもと変わらぬ帰り道。
いつものように喉が渇いた。
都会のオアシスのような自動販売機が手招きしている。
小銭を手放すことにためらいのない僕は、ポケットの中に幾らあるかなんて確認していない。
だから右手は直ぐに投入口へ伸び、親指の腹で百円と五十円を押し出す。
二枚を送り出して選ぶのはいつものヤツ。
僕は人さし指を折り曲げ、第二関節の山でボタンを押した。

 

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まだ静かな朝に響く小さめの騒音。
落ちてきたヤツは後に回し、先に釣り銭のレバーを下げた。
すると、いつもと違う音がした。
僕は取り出し口を見た。
なぜか蓋が無かった。
初めてだ。 
外されたのか、外れてしまったのか。
無防備に開いた小さな口。そこに釣り銭の姿は無かった。
もしかして外へ飛び出してしまったのだろうか。
見たところ路上には何も落ちてない。
僕は自販機の向かい側にある花壇を覗いた。
飛び込んだとしたらここだろう。
朝露の滴で袖を濡らしながら枝葉をかき分けて探した。
なんとなくせこい気もしたが、見つけ出したかった。
そして、しばらく探した後、別の物に出くわした。
遭遇したのは、四葉のクローバー。
僕は素直に嬉しくなった。新聞の運勢欄を今日はで読んでやろうと思った。
それからクローバーを持って帰るために摘み取ろうとした。
その時だった。
更なる発見が続いた。
クローバーが密集している一画に目立つ黄色。
顔を近づけてみると、それはギターのピックだった。僕には見覚えがあった。
だいぶ前に行方を見失った一枚。
どこにいったのか分からないまま数ヶ月。
探そうともしなかった。
ピックはまだ劣化していない。
僕はそれを拾い上げた。
すると、聴き慣れない音楽が流れ始めた。
背中の方から賑やかに呼び掛けてくる。
その音は自販機が奏でていた。
どうやら当たったらしい。でも今頃?。
僕は少し慌てながら、さっきと同じヤツを選んだ。
そして放置していたヤツと二本取り出そうとした時、今度はお釣りが出て来る音がした。
まさか。
蓋の無い取り出し口を覗くと、十円硬貨が三枚。
途中で引っ掛かっていたのだろうか。
それが今になって落ちて来たということか。

 

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硬貨を掴み出しながら、僕はクローバーの葉を思い浮かべていた。
三枚の硬貨と一枚のピックで四つの葉。
それから考えたことがある。

もう一度、ギターの練習をしてみよう。 

今日の僕が行くべき方向。
それが決まった瞬間だ。 ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『今日の行方』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『今日の行方~SCENE1&SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:非売品
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

今はまだ文字のない絵本『旅人の誕生日(スライドショー絵本)

 

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『人生の途中にあるトンネル。そこでは稀にの秘密が語られる』

絵本『BLUE AND THE MOON

環樹涼 著/2007年8月25日刊行

販売価格¥1,000(税込)

現在、Amazon にて販売中。 著者の管理する在庫から発送いたします。

 

~自分相応の言葉~

『吹けば舞うよなにも誇りがあります』

$Pride and Dust World

詩集『埃、咲き誇るために』

環樹涼 著/2007年11月1日刊行

販売価格¥700(税込)

現在、Amazon にて販売中。 著者の管理する在庫から発送いたします。

 

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■『短い物語P&D』のSCENEを描いた絵画を初ポストカード化

『かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがあります』

※絵と対になる物語は電子書籍にて販売中。アルバム収録。

ポストカード『Tug Of War~SCNEN1.2.3』

環樹涼 /2014年:販売価格¥100(税込)

市場に流通していません。 著者の管理する在庫から発送いたします。 まだ在庫あります。 送料は無料です。 ご注文方法はお問い合わせ下さい。

 

『ご購入いただいた皆様へ……誠にありがとうございます。感謝!!』

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(22)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
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■短い物語P&D『イマドキ』

近頃の“龍乗り”はなってない。
昨日も見たんだが、駐龍場の枠からはみ出して止めていた。
よく躾けた龍なら自分から収めるんだが。どうやら乗り手に問題があるらしい。
「公道も我が道」というところか。

オレは食事を取るために店に入った。
カウンターの向こうには痩せた男。
短い挨拶を交わし、「いつもの」なんてオレには性に合わない。
指差した瓶をひとつ手渡してもらうだけ。
まずはビール。
特に理由はなくて、そんなもんだろうという感じ。
オレはお一人様が常。
酒に肩まで浸ることはないが、この店にはまっていたオレは常連だった。
狭い店だが人気がある。
マスターの音楽好きは有名で、演奏も披露した。
彼はあるバンドに狂っている。

オレは直ぐに店の奥にある小さなテーブルを眺めた。
抑えたランプの灯りが、人の表情をけだるく見せる。
それから新しい枠にはめられて窮屈な古い絵。
次にカウンターの下のBARにのせた知らない奴の足。
薄目を開けたような暗い光が、この店には棲んでいるようだ。 
カウンターの柱に飾ってある左利き用のベースだけがまともに見える。

一杯飲み終わる前に、事は起きた。
カウンターの前に五人の若者。
どいつも上背がある。
お帰りになるらしい。
お勘定の最中だった。
割り勘の相談だろうか。
いや、そうではなかった。
支払いを任されたヤツがもたついているだけだった。
酔いがまわっているんだろう。
床にコインを何度も落とした。
その度に空気が歪んだ。
誰も口にしないが、同じ思いだったはず。
周りの連れが笑ってからかう。

黙ったまま待つマスター。
ゆっくりしたまばたきは、時を数えているようだった。
敵に取り囲まれてしまったような光景。
ここから見たら因縁つけられてるみたいだ。
一人対五人か。
分が悪い。
見物する方が身のためかな。


「割り勘じゃないんなら支払うヤツだけ残ってろ。他は静かに外で待ちな」
そう言いたくなったオレを制したのは、店に入って来た一人の男だった。
押された空気が灯りを激しく揺らす。
腰から下がる鍵の束の心地よくない音。
すべての客が男に注目した。 

「誰だ。あんな止め方してるのは。やり直せ」
落ち着いた口調だった。
静かな店内を見回す男。
カウンターの五人は限りなく小さくなっていた。
何も言わずマスターに頭を下げた男。
彼も常連らしい。
男は、オレとは反対側の奥にある小さなテーブルへ。
そこがお決まりの席らしい。

ここからは顔がよく見えないが、男が何者なのか気になった。
歳は五十代といったところか。
若者を叱るなんて今どき珍しい。
しかし、下手に関わる気はなかった。
興味本位っていうのは、災いにすぐ気に入られる。

 

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そんな想いで飲んでいると、五人は勘定を済ませたようだった。
マスターに金を手渡し、「すいません」と一言。
少々ふらつきながらも足早に出て行った。
金を投げることもなく、お決まりの捨て台詞もない静かすぎる終劇。
悪いヤツらじゃないんだよな。
今どきのヤツらっていうだけ。
外につないである龍は、おそらくあいつらのだ。
親が与えたんだろう。
龍は本当に最高だった。
血統は悪くなかったし、立派な鞍もつけていた。
風の抵抗を考慮した装備。
目立つための装飾も。
龍には少し重そうだ。
オレは、こう思うようにした。
あの龍の主は、扱いが下手なんだと。
頭を前にして止めようが、尾から入れて止めようが、操る腕が悪いんじゃ仕方ない。
そう思うようにするよ。

それにしても、いい龍だった。
それよりもオレが惹かれたのは、あの男だったけど。


そんな空想をしながら、僕はコンビニの駐車場で同志を待っていた。
ふと店内を見ると、レジ前に集う人、人、人。
相変わらずの風景。
現在、季節はそろそろ秋。
冷たくなった風が、隣のワンボックスにぶつかる。
よく見れば、枠をはみ出して駐車している。
世間の風当たりは、黒いフィルムで遮っているらしい。
僕はどうしたいのかといえば、それが何より難しい。
これが現実、たった今。  ~終わり

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『イマドキ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『イマドキ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(21)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
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当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『くぐりぬける』(2/2)

二つの車輪が地面の愚痴を聞きながら回っている。
固い舗道も暑さでまいっているらしい。
僕はスピードを出さずに走る。
自転車で散歩するような感じだろうか。
いつもと違って、気になることがいくつも通り過ぎて行く。
窮屈な場所を与えられた緑。
人に負けまいとアスファルトを持ち上げる命。
消えた雑木林。
池があったはずの小さな公園。
坂の途中にあったはずの小さな書店はなかった。
気づかなかったこと全てが手遅れのように思えた。

見上げれば、まだ虹は消えていなかった。
僕は虹の上の辺りに何かを見つけた。
ふらふらと走りながら、目が追いかけた。
アーチに沿って黒い影が登っていく。
そんな風に見えた。
鳥だろうか。
そう思った時、赤信号に気づいた僕は急ブレーキをかけた。
左足で支えて止まると、道路の向こう側の景色が目に入った。
小さな公園の隣。
学校の目の前。

僕は信号を待たずに地下道へ入った。
ゆるいスロープの上を、自転車を支えながら進む。
くぐりぬけると、記憶は突然よみがえった。

 

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狭いガレージ。
薄暗い二階。
込み合った食卓。
上座の父。
ほんのわずかな間、生家のすぐ近くに引っ越していた時の記憶。
「僕はここで暮らしていたんだ」
あの時の家は、もうここには無かった。
思い出をたどりすぎるのは良くない気もするが、
ここにたどり着いたことには意味があるはずだと、僕には思えた。

虹をくぐるとか言って出てきたけれど、気づけば虹はもう消えていた。
それでも僕は、ここまでゆっくりやって来た。
これからも焦ることはない。
いくつもくぐりぬけて、自分相応。  ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『くぐりぬける』(2/2)
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『くぐりぬける~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
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