Pride and Dust World(HTN)

かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(21)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『くぐりぬける』(2/2)

二つの車輪が地面の愚痴を聞きながら回っている。
固い舗道も暑さでまいっているらしい。
僕はスピードを出さずに走る。
自転車で散歩するような感じだろうか。
いつもと違って、気になることがいくつも通り過ぎて行く。
窮屈な場所を与えられた緑。
人に負けまいとアスファルトを持ち上げる命。
消えた雑木林。
池があったはずの小さな公園。
坂の途中にあったはずの小さな書店はなかった。
気づかなかったこと全てが手遅れのように思えた。

見上げれば、まだ虹は消えていなかった。
僕は虹の上の辺りに何かを見つけた。
ふらふらと走りながら、目が追いかけた。
アーチに沿って黒い影が登っていく。
そんな風に見えた。
鳥だろうか。
そう思った時、赤信号に気づいた僕は急ブレーキをかけた。
左足で支えて止まると、道路の向こう側の景色が目に入った。
小さな公園の隣。
学校の目の前。

僕は信号を待たずに地下道へ入った。
ゆるいスロープの上を、自転車を支えながら進む。
くぐりぬけると、記憶は突然よみがえった。

 

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狭いガレージ。
薄暗い二階。
込み合った食卓。
上座の父。
ほんのわずかな間、生家のすぐ近くに引っ越していた時の記憶。
「僕はここで暮らしていたんだ」
あの時の家は、もうここには無かった。
思い出をたどりすぎるのは良くない気もするが、
ここにたどり着いたことには意味があるはずだと、僕には思えた。

虹をくぐるとか言って出てきたけれど、気づけば虹はもう消えていた。
それでも僕は、ここまでゆっくりやって来た。
これからも焦ることはない。
いくつもくぐりぬけて、自分相応。  ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『くぐりぬける』(2/2)
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『くぐりぬける~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:非売品
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。