Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(15)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■短い物語P&D『世界の果て~街へ』

男は深夜に目が覚めた。
今夜は夜勤がない。
無駄に寝過ぎたのか、少し機嫌が悪かった。
時計の頭を叩いて時間を確かめる。

もうすぐ明日か。

それは、時計のディスプレイが点灯している間の感想。
起床した時間は、ほとんどのTVがニュース番組だった。
男はプロ野球の結果を求め、リモコンのボタンを親指で探った。
左腕を伸ばし、画面を目がけて軽く打つ。
時代遅れのぶ厚い塊は、まだ灯りを消したままの部屋を静かに照らした。
背もたれは寝かせたまま、男は上半身を起こした。
画面はCM中。
そこには、日々大金を投入中の缶コーヒーが映っていた。
男は、直ぐに小銭を思い出した。
デニムパンツのポケットには昼間のお釣りがあったはず。
男は着替えもせずに部屋を出た。

満月の翌日。
まだ世界は明るい。
男は狭い道路を横切り、大通りの方へ向かった。
もう車も少ない時間。
一番近い自販機をスルーして、いつもと違う場所を探した。
考えていると、少し散歩してみたくなった。
歩きながら月を探してみる。
落ち葉をもてあそぶのに飽いた夜風につきあう。
ふいに出されたパスを受け、蹴り返す空き缶。
男はどこへ行こうか、すぐには決めかねた。
コンビニへ行くつもりはなくて、自販機だけを探すことにした。
こんな時、意外と見つからない。
やがて男は、通った覚えのない道に惹かれた。
街灯も弱々しい静かな通り。
その奥に一台見つけた。
たぶん自販機だろう。
不気味に木々が揺れる神社と、死んだような居酒屋の前を通り、待ち伏せしているような車が止まる駐車場を横切る。
そして、歩道へ降りようと右足を出した時だった。
男は襲われた。
突然の地盤沈下
いとも簡単に巻き込まれた。

罠にハマった。
罰が当たった。

そんな後悔。
男は、いくつも身に覚えがあった。
しかし、それ以上何も考えることはできなかった。
わずか数秒で地下の層が現れると、そこに手をかけて逃れる間も与えられなかった。
男はアスファルトの断片に乗ったまま降下していった。
それは、あるはずのない階層へ運ぶエレベーター。
体験したことのない恐怖が、さらに体を硬直させる。
どこまで落ちて行くのか。
ようやく止まった時、男はその衝撃で後ろへ倒れこんだ。
頭を打ったのか、そのまま気を失ってしまった。

 

f:id:pride_and_dust:20170909124537j:plain

 

それから数時間が静かに経過した。

男は寒さで目を覚ました。
空が見える。
聴こえて来る鳥の鳴き声。

朝?

まだ空も寝ぼけたような色だった。
どうやら一晩、穴の底で気を失っていたらしい。

麻酔から覚める時もこんな感じだったかな。

男は後頭部に痛みを感じた。
右手の指で押さえてみたが流血はなかった。
両手で全身を恐る恐る確かめたが、骨折はしていない。
両腕には血が乾いて間もない擦り傷だけ。
上半身を起こそうとすると、背中と足の辺りで音がした。
何かが崩れるような感じ。
咄嗟に身構える男。
もっと深くへ沈下するかもしれない緊張感。
ここで初めて周囲にピントが合った。

周りはゴミだらけだった。
底を埋め尽くす色とりどりのゴミ。
その上に男は落ちたのだ。
というよりもここに到達した。
山のように積み上がってできたオブジェ。
分別されていないガラクタを敷き詰めたフロア。
なぜかコーヒーの空き缶が目立つ。
その中には見覚えのあるゴミがあった。

それは、かつて男が持っていた物。
土に還ることができない物から、目を背けたくなるような物まで。
男にはそれらが全て、自分が捨てた物に思えた。

「イタッ」
上から何かが落ちて来た。
コン、コン、コン……
目の前を落ち着き無く転がっていくのは、コーヒーの空き缶だった。
それは、地上から投げ捨てられた一品。
誰かが放り投げたはずなのに、男は助けを求めなかった。
そして、別の何かを思い出したように立ち上がった。
両足が少しだけガラクタに沈む。
頭上の出口を見上げると、いびつな円から覗いていたのは、今日という一日。
男はようやく脱出しようと試みた。

這い上がろう。
とにかくここから抜け出さなければ。 ~終わり


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『世界の果て~街へ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【画】
■タイトル(Title):『世界の果て~街へ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。