since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(27)
『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。
日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。
「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」
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■短い物語P&D『夜の集会』
熱帯夜のせいで、男の目覚めは湿って重かった。
高速道路のSAでの車内泊では、疲れも体の中で駐車したままだ。
そして、僅かに開けたウィンドウから車内に入ってきたのは、期待していた夜風ではなかった。
「どこへ行くかもう決めた?」
「まだ決めてない」
「戻って来られるのかな?」
聞こえてきたのは、男女数人の話し声。
男は声の主が若者のグループだと思い込んだ。
シートに仰向けのまま、目だけ動かして会話の主を探る。
「僕は帰らないつもり」
「わたしはまだ考え中」
「新しい旅立ちだから、盛大に祝っとこうよ」
騒がず早々に解散してくれよと、男は願う。
助手席側の窓に人影は見えなかった。
声が聞こえてくるのは車の前方からだった。
フロントガラスを見ると、ボンネットの上で動く影があった。
そこには数匹の猫がいた。
話し声の主たちは、猫に気付いていないらしい。
猫たちは、話しを聞いているのかな。
驚かせてはいけないと思った男は、静かに体の向きを変えようとした。
その時、携帯のアラームが邪魔をした。
音を止めるのに手間取っている間に、猫たちは一斉に散って行った。
車から飛び降りていく猫たちの影が、フロントガラスを通り抜けていった。
若い連中にも気づかれただろう。
男は天井を向いたまま外の様子を伺った。
緊張しながら耳をすませた。
全身から汗が滲み出す。
一分ほどの間、男は固まっていた。
けれど、近づいて来る様子はなかった。
話し声も聞こえてこない。
男は恐る恐る体を起こした。
そして車の外を見回し、自分だけが広い駐車場に残っていることを知った。
レストランはすでに閉まっている。
起きていたのは、俯いたような照明と、直立不動の自販機だけ。
駐車場を見渡したけれど、車は一台も止まっていなかった。
人は誰もいない。
車を降りて確かめたが、若者たちの姿は確認できなかった。
いつの間に立ち去ったのだろう。
ドアが閉まる音も、車が走り去る音も聞こえなかった。
姿が隠れるような場所が近くにあるわけでもない。
男には不思議だった
やがて少しずつ怖くなってきた。
車に戻った男は、恐る恐るバックミラーを確認した。
急ぐようにキーを回す。
エンジン音が男を少し安心させた。
ヘッドライトを点けると、前方に黒猫が一匹座っていた。
一瞬で、首の後ろから両肩にかけて鳥肌が立った。
男はアクセルを踏む気になれず、猫見つめた。
そいつは、夜空を見上げていた。
こっちを気にする様子はなかった。
そして、何かに気づいたように花壇に駆け込んで見えなくなった。
それを見届けた後、男は車を発進させた。
深夜のハイウェイを逃げるような気持ちで走る。
今宵は満月。
男はそれに気付いていなかった。 ~終わり
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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『夜の集会』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。Kindle・Koboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『夜の集会』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。
☆みな様の訪問に日々感謝しております。
■制作依頼を承っております。
『ご依頼いただいた皆様へ……誠にありがとうございます。感謝!!』
■電子書籍配信中!試し読み作品あります。
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『人生の途中にあるトンネル。そこでは稀に月の秘密が語られる』
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環樹涼 著/2007年8月25日刊行
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『かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがあります』
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環樹涼 /2014年:販売価格¥100(税込)
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『ご購入いただいた皆様へ……誠にありがとうございます。感謝!!』