Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(22)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『イマドキ』

近頃の“龍乗り”はなってない。
昨日も見たんだが、駐龍場の枠からはみ出して止めていた。
よく躾けた龍なら自分から収めるんだが。どうやら乗り手に問題があるらしい。
「公道も我が道」というところか。

オレは食事を取るために店に入った。
カウンターの向こうには痩せた男。
短い挨拶を交わし、「いつもの」なんてオレには性に合わない。
指差した瓶をひとつ手渡してもらうだけ。
まずはビール。
特に理由はなくて、そんなもんだろうという感じ。
オレはお一人様が常。
酒に肩まで浸ることはないが、この店にはまっていたオレは常連だった。
狭い店だが人気がある。
マスターの音楽好きは有名で、演奏も披露した。
彼はあるバンドに狂っている。

オレは直ぐに店の奥にある小さなテーブルを眺めた。
抑えたランプの灯りが、人の表情をけだるく見せる。
それから新しい枠にはめられて窮屈な古い絵。
次にカウンターの下のBARにのせた知らない奴の足。
薄目を開けたような暗い光が、この店には棲んでいるようだ。 
カウンターの柱に飾ってある左利き用のベースだけがまともに見える。

一杯飲み終わる前に、事は起きた。
カウンターの前に五人の若者。
どいつも上背がある。
お帰りになるらしい。
お勘定の最中だった。
割り勘の相談だろうか。
いや、そうではなかった。
支払いを任されたヤツがもたついているだけだった。
酔いがまわっているんだろう。
床にコインを何度も落とした。
その度に空気が歪んだ。
誰も口にしないが、同じ思いだったはず。
周りの連れが笑ってからかう。

黙ったまま待つマスター。
ゆっくりしたまばたきは、時を数えているようだった。
敵に取り囲まれてしまったような光景。
ここから見たら因縁つけられてるみたいだ。
一人対五人か。
分が悪い。
見物する方が身のためかな。


「割り勘じゃないんなら支払うヤツだけ残ってろ。他は静かに外で待ちな」
そう言いたくなったオレを制したのは、店に入って来た一人の男だった。
押された空気が灯りを激しく揺らす。
腰から下がる鍵の束の心地よくない音。
すべての客が男に注目した。 

「誰だ。あんな止め方してるのは。やり直せ」
落ち着いた口調だった。
静かな店内を見回す男。
カウンターの五人は限りなく小さくなっていた。
何も言わずマスターに頭を下げた男。
彼も常連らしい。
男は、オレとは反対側の奥にある小さなテーブルへ。
そこがお決まりの席らしい。

ここからは顔がよく見えないが、男が何者なのか気になった。
歳は五十代といったところか。
若者を叱るなんて今どき珍しい。
しかし、下手に関わる気はなかった。
興味本位っていうのは、災いにすぐ気に入られる。

 

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そんな想いで飲んでいると、五人は勘定を済ませたようだった。
マスターに金を手渡し、「すいません」と一言。
少々ふらつきながらも足早に出て行った。
金を投げることもなく、お決まりの捨て台詞もない静かすぎる終劇。
悪いヤツらじゃないんだよな。
今どきのヤツらっていうだけ。
外につないである龍は、おそらくあいつらのだ。
親が与えたんだろう。
龍は本当に最高だった。
血統は悪くなかったし、立派な鞍もつけていた。
風の抵抗を考慮した装備。
目立つための装飾も。
龍には少し重そうだ。
オレは、こう思うようにした。
あの龍の主は、扱いが下手なんだと。
頭を前にして止めようが、尾から入れて止めようが、操る腕が悪いんじゃ仕方ない。
そう思うようにするよ。

それにしても、いい龍だった。
それよりもオレが惹かれたのは、あの男だったけど。


そんな空想をしながら、僕はコンビニの駐車場で同志を待っていた。
ふと店内を見ると、レジ前に集う人、人、人。
相変わらずの風景。
現在、季節はそろそろ秋。
冷たくなった風が、隣のワンボックスにぶつかる。
よく見れば、枠をはみ出して駐車している。
世間の風当たりは、黒いフィルムで遮っているらしい。
僕はどうしたいのかといえば、それが何より難しい。
これが現実、たった今。  ~終わり

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『イマドキ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『イマドキ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。