Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(6)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『オトナガイ』

今日は新製品の発売日。
ミニチュアモデルのシリーズ。
いわゆる食玩
太陽系の九個の惑星を模した球体が一個入ったブラインドBOX。
中身は買わなきゃわからない。
全十種類の内シークレットがひとつで、冥王星も惑星として数えてるらしい。
僕は当日、近所のコンビニへ走った。

自動ドアが開ききる前だというのに、体のほとんどが店内。
年甲斐も無く弾んでいるような気がする。
まあ男なんてこんなもの。
缶コーヒーのおまけにだって誘惑されてるくらいだから。
けれど、そんな想いを塞き止めた光景。
レジ前の人だかり。
もう出勤ラッシュは通り過ぎたはずなのに。
案の定、若者、強面、連れ数人。
それ以外は外野席。
なんて狭いスタジアム。
これは乱闘前の気配だ。
男のでかい声がぶつかって店員の女の子が後ずさる。
あ、女の子か。
どこでも女性店員はなめられる。
何が起きてるのか知らないが、手を挙げることはないだろうけど。
僕の仕事場も同じだ。
ただ、気になる物が見えてしまった。
あれは僕が買いにきた商品。
なぜ3カートンも。

男たちは買い占めが目的だった。
お断りの説明に激怒しているらしい。
恫喝が続く。
見かねた僕は、軽はずみな勇気で止めに入ろうとした。
その時だった。 

視界に波が押し寄せた。
こんな時に、目眩。
そうじゃない、地震だ。
初めて外出中に体が感じた揺れ。
瞬時に僕は触覚みたいになった。
じっと目だけで状況を探ると、他のお客も油断していた様子。
そのうちに陳列棚の商品たちも騒ぎ出した。
小さな悲鳴がして、頭をかばう人が奥に見えた。
でも、この時の僕はなぜか落ち着いていた。
ここが自分の部屋だったなら、蛍光灯から下がる紐を真っ先に見ていたはず。
幸い、揺れは直ぐにおさまった。

突然の揺れでレジ劇場は終幕。
床に散乱する物も無く、静かになった。
店内に流れるCMが現実に戻してくれる。
笑顔で感想が飛び交い、にわかに僕らは繋がった。
肝心な「女性店員VS男三人」は、地震コールドゲーム
連中は諦めたらしく、数個を手にしてのお帰り。
捨て台詞っぽいのが聞こえたけれど、いつものことだと思った。

僕は一つだけ買った。
部屋の状況とか地震の規模が気になって、嬉しさはどこかへ逃げてしまっていた。
早く中身を見たいはずなのに、嫌な気持ち。
レジのシーンも何度か再生されそうだ。

その夜、僕は洗濯物を取りにベランダに出た。
近くまで来てる梅雨の匂いみたいな風を受けて、月を探した。
雲一つない夜空だったけれど、いない。
いくつか見える星をつなぐこともできなかったけれど、輝きを見つけた。
ふと見下ろした時に、街の大型ビジョンに流れていた言葉。
「君から気づいて、少しずつでも」
その言葉を想いながら部屋に戻ろうとした時、遠くの空が一瞬だけ光った気がした。
雷とは違う色。
体に悪そうな赤。
しばし耳を澄ます。
気のせいだったのか。

 

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明日の未明、ニュースで新しい島の誕生が世界に知れ渡る。
場所は太平洋の中心。
どうやら地震の影響らしい。
不思議なのは、十数個の細長い島が並ぶように隆起しているということ。
上空から衛星が撮影した写真も公開されて……誰もが思ったに違いない。
「これってバーコードだよね」

人類は知らない。
もうずっと前から目をつけられていたことを。
太陽系は大人気。
まして地球はレア。
人類は幼いから、こんな買い方はできない。

いつまでもこんなんじゃタメなのに、街はどこも危うく騒がしい。
だから僕は祈る。
自分の都合で祈る。
誰に祈ったかは、想像にお任せします。  ~終わり

 

 


【作話】
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■タイトル/短い物語P&D『オトナガイ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008

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【画】
■タイトル(Title):『オトナガイ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5、縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)

※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。/物語はKindleKoboにて配信中!