Pride and Dust World(HTN)

画家ではありません。 イラストレーターでもありません。 物語と詩を書いています。 それらと対になる絵を描いています。 Japanese Working Class Artist. 制作依頼はお気軽に。かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(28)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『ベンチの夜』

馴染みのBARからの帰り道。
高揚していたせいか、男はしばらく歩きたくなった。
少しだけ遠回りの道を選び、客を待つ車が連なる通りへ出る。
どちらかといえば速い足取りで、向かったのは立体パーキングの一階にあるコンビニ。
すれ違う連中を警戒しながら、歩くルートを計算する。
明るい通りでも、男は決して油断することはなかった。
客引きを巧みに回避しながら、低空飛行で歓楽街を抜けた。
途中、知り合いの車かもしれないと思って路駐の車を覗いたりもした。
男は酔っていたけれど、彼曰くほんの少しだけ。
まっすぐ歩こうとする意識はあった。
それでも夜勤明けからずっと眠っていないせいで蛇行した。
眠気を覚ますため、力を込めた瞬きを繰り返す。
男の免震機能は疑わしい状態。
時々ふらつきながらも、なんとか目的地の近くにあるベンチにたどり着いた。

ゆっくりと石の座席に腰を下ろす。
前屈みのまま膝に手をついて、顔を右へ向ける。
なんとなく店内が騒がしく見えた。
明かりにつられて来たけれど、夏の虫になりたくない男は、少し様子を伺うことにした。
背もたれで涼を取りながら、歩道に視線を落とした。
すると、真っ先に正面のゴミが景色を広げた。
道の真ん中に大きめのカップ。
少量のスープと麺が見えている。
捨てられた割り箸は、たぶん無料。
街路樹の根元には、夜に映える白いレジ袋。
役割別に用意されたゴミ箱の前に並んだコーヒー飲料の空き缶。
時代遅れのポイ捨てされた吸い殻。
綺麗なままのフライヤー。
周囲を見渡した男は、無料でワーストな夜景を見た。
体内で不快な成分が急増し、体の重みが増した感じがした。
ここのベンチだけ重力が違うようだ。
男は片付けるために立ち上がる気はおきなかった。
そして、いつのまにか瞼を閉じていた。

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落ちるつもりはなかったが、睡魔は最後の一手をb。
眠ったらまずいと思い、力いっぱい両腕を広げて伸びをした。
一瞬だけ音が遮断された後、何か聞こえてきた。
声はベンチの後ろの方からだ。
けれど、後ろは車道のはず。
それでも何人かいる気配がある。
僕は目を閉じたまま聴き取ることに集中した。

「水がおいしくない。降ってくるのも味はイマイチ」
「土も変な匂いがするよ」
「風は見えるくらい汚れてきた」
男には聴こえる。
はっきりと。
「いまだに愚かな争いを繰り返しているとはね。奴らは学ばないから年輪に何も記憶されないようだ」
「さっき通り過ぎた人は幸せそうに見えるね。かなり酔っていたようだけど」
男は幸せそうに酔う知人の姿を思い出した。
それから、いくつかの言葉が気になった。
「この辺りもここまでか」
「そろそろ潮時かな」
路肩の段差に座りこんで雑談しているのだろうか。
男には確かめたいという気持ちはあったが、躊躇した。
なぜか汗が余計に噴き出してシャツに染みる。
寝たふりをする必要はなかったけれど、自然とそうなっていた。

「もうこの星は見つかっているんだってさ」
「そのことは知らないほうが幸せだよ」
「でも、わたしはここを離れたくないなあ」
後ろの連中は、いったい何者なのだろう。
男は不安を吹き込んだような疑問を膨らませながら、これからどうしようか迷った。
迷い続けた結果、睡魔に攻め込まれてしまった。
無防備のまま、男は夜の湿気に沈んだ。


目覚ましの代わりはゴミをつつくカラスたちだった。
だらしなくもたれていた体を起こすと、右の頬に何かが触れた。
びっくりして払い除けたものは、街路樹の垂れ下がった細い枝。
夏を脱色したような葉が一枚舞う。
そして、左側に人の姿を捉えた。
いや、違った。
それは少女の姿をしたベンチのオブジェだった。
僕は昨夜のことを思い出しながら姿勢を正した。
それから思い出したようにベンチの後ろを覗いた。
誰もいない。
何も無い。
吸い殻やゴミが残っていることはなく、何人かが集まっていたような形跡はなかった。
僕は座り直し、考え始めた。
それは二度寝をさせない妄想。

街はノイズばかりだと思っていた。
人の声も、車の騒音も。
そう思っていたけれど、昨夜はいつもと違っていた。
その気になれば聞こえてくるのは人の声ばかりじゃない。
聞き逃していた声があっても不思議じゃない。
人目を気にしても、人を見ているのは人だけじゃない。
監視カメラでさえ、意志を持っている。

男は所持品を確かめ、独占していたベンチから腰を上げた。
さて、とりあえずはコンビニへ行こう。
男には日課みたいなものだから。 ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『ベンチの夜』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2011
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『ベンチの夜』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2011
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(27)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

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■短い物語P&D『夜の集会』

熱帯夜のせいで、男の目覚めは湿って重かった。
高速道路のSAでの車内泊では、疲れも体の中で駐車したままだ。
そして、僅かに開けたウィンドウから車内に入ってきたのは、期待していた夜風ではなかった。

「どこへ行くかもう決めた?」

「まだ決めてない」

「戻って来られるのかな?」

聞こえてきたのは、男女数人の話し声。
男は声の主が若者のグループだと思い込んだ。
シートに仰向けのまま、目だけ動かして会話の主を探る。

「僕は帰らないつもり」

「わたしはまだ考え中」

「新しい旅立ちだから、盛大に祝っとこうよ」

騒がず早々に解散してくれよと、男は願う。

助手席側の窓に人影は見えなかった。
声が聞こえてくるのは車の前方からだった。
フロントガラスを見ると、ボンネットの上で動く影があった。
そこには数匹の猫がいた。 
話し声の主たちは、猫に気付いていないらしい。

猫たちは、話しを聞いているのかな。

驚かせてはいけないと思った男は、静かに体の向きを変えようとした。
その時、携帯のアラームが邪魔をした。
音を止めるのに手間取っている間に、猫たちは一斉に散って行った。
車から飛び降りていく猫たちの影が、フロントガラスを通り抜けていった。

若い連中にも気づかれただろう。

男は天井を向いたまま外の様子を伺った。
緊張しながら耳をすませた。
全身から汗が滲み出す。
一分ほどの間、男は固まっていた。
けれど、近づいて来る様子はなかった。
話し声も聞こえてこない。

 

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男は恐る恐る体を起こした。
そして車の外を見回し、自分だけが広い駐車場に残っていることを知った。
レストランはすでに閉まっている。
起きていたのは、俯いたような照明と、直立不動の自販機だけ。
駐車場を見渡したけれど、車は一台も止まっていなかった。
人は誰もいない。
車を降りて確かめたが、若者たちの姿は確認できなかった。

いつの間に立ち去ったのだろう。

ドアが閉まる音も、車が走り去る音も聞こえなかった。
姿が隠れるような場所が近くにあるわけでもない。
男には不思議だった
やがて少しずつ怖くなってきた。

車に戻った男は、恐る恐るバックミラーを確認した。
急ぐようにキーを回す。
エンジン音が男を少し安心させた。
ヘッドライトを点けると、前方に黒猫が一匹座っていた。
一瞬で、首の後ろから両肩にかけて鳥肌が立った。
男はアクセルを踏む気になれず、猫見つめた。
そいつは、夜空を見上げていた。
こっちを気にする様子はなかった。
そして、何かに気づいたように花壇に駆け込んで見えなくなった。
それを見届けた後、男は車を発進させた。

深夜のハイウェイを逃げるような気持ちで走る。
今宵は満月。
男はそれに気付いていなかった。  ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『夜の集会』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『夜の集会』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

 

 

 

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9.11以降、3.11以前の混沌から生まれた物語~

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絵本『BLUE AND THE MOON

環樹涼 著/2007年8月25日刊行

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~自分相応の言葉~

『吹けば舞うよなにも誇りがあります』

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詩集『埃、咲き誇るために』

環樹涼 著/2007年11月1日刊行

販売価格¥700(税込)

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since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(26)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
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空想してしまうという現実。
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■短い物語P&D『RUN』

 

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『RUN』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『RUN~SCENE1』『RUN~SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:非売品
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■短い物語P&D『50世紀』

 

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『50世紀』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『50世紀~SCENE1&SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2009
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
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※絵と対になる物語は電子書籍にて販売中。アルバム収録。

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環樹涼 /2014年:販売価格¥100(税込)

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since August 25th, 2007/僕が出逢った景色から(24)

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
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日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
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■短い物語P&D『サヨナラ』

「流れ星」
つい口から出てしまった少年。
顔の前で控えめに空を指差さした。
一瞬で消えてしまったから、近くにいたもう一人には見えなかった。
その男は空を見上げたが、願い事について話すことはなかった。
静かに話し始めたのは、全く別の話だった。

「お前が見たのは、あれはボールだよ。太陽系の外から飛んできたんだ。流れ星の正体は、実は神様が打ったホームランだ」
少年は黙って聞いていた。
もちろん作り話だと分かっている。
巷に神が溢れる時代だから、特に惹かれる話しではなかった。
「神様も野球をするんだ。時々、集まって試合をしているらしいよ。今夜はどのあたりだろう。宇宙に浮かぶボールパークに屋根は無いから、宇宙望遠鏡なら見えるかもしれないな。地球雨よりより進んだ文明の異星人なら、VIPシートで観戦してるかもしれない」
男に野球の経験があることを少年は知っている。
けれど、こんな話しをするのは珍しい。
少年は話しの仕入れ先が少しだけ気になった。
そう思いながらも、続いていく話しに耳を傾いた。
「場外ホームランは流れ星になる。でもあれは、特別な力で打ったんじゃないんだ。神様たちも練習をして、努力を積み重ねた結果、打つことができたんだ」
神様が練習とか努力?
否定したら話は終わってしまうと思いつつ少年は頷いた。
次の流れ星に期待しながらも、二者連続は難しいだろうなと思った
けれど、神様ならホームランどころか打率十割だって簡単なはず。
練習するとしても直ぐに上達するだろうし、すでに上手いなら、神技を生み出してもおかしくない。
少年の想像は少しずつ妄想へと移りながら、最後まで一言もしゃべらなかった。
ずっと黙って聞いていた。
時々空を見上げた時、今夜の星は騒がしい気がした。
「そろそろ引き上げようか」
男が言った。

 

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僕は我に帰って反射的に釣り竿を引く。
この時、僕は考えていた。
少年の頃、父とこんな話しをしたことがあっただろうか。
場外へ消えた白球。
それが、地球まで届いた。
あれはサヨナラホームランだったのかもしれない。
サヨナラ勝ちならいいけれど。
人は生きているだけで、サヨナラしなければならないことが多過ぎる。
なんて思った僕は、もう少年ではないけれど、大人ともいえない。
気持ちのいい潮風が吹いて来た。
今夜は何も釣れなかった。 ~終わり・

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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『サヨナラ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
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【画】
■タイトル(Title):『サヨナラ』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
■販売価格:10,000円(税込)
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。

 

 

 

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■短い物語P&D『今日の行方』

僕の仕事帰りは、もう長いこと朝。
今朝もいつもと変わらぬ帰り道。
いつものように喉が渇いた。
都会のオアシスのような自動販売機が手招きしている。
小銭を手放すことにためらいのない僕は、ポケットの中に幾らあるかなんて確認していない。
だから右手は直ぐに投入口へ伸び、親指の腹で百円と五十円を押し出す。
二枚を送り出して選ぶのはいつものヤツ。
僕は人さし指を折り曲げ、第二関節の山でボタンを押した。

 

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まだ静かな朝に響く小さめの騒音。
落ちてきたヤツは後に回し、先に釣り銭のレバーを下げた。
すると、いつもと違う音がした。
僕は取り出し口を見た。
なぜか蓋が無かった。
初めてだ。 
外されたのか、外れてしまったのか。
無防備に開いた小さな口。そこに釣り銭の姿は無かった。
もしかして外へ飛び出してしまったのだろうか。
見たところ路上には何も落ちてない。
僕は自販機の向かい側にある花壇を覗いた。
飛び込んだとしたらここだろう。
朝露の滴で袖を濡らしながら枝葉をかき分けて探した。
なんとなくせこい気もしたが、見つけ出したかった。
そして、しばらく探した後、別の物に出くわした。
遭遇したのは、四葉のクローバー。
僕は素直に嬉しくなった。新聞の運勢欄を今日はで読んでやろうと思った。
それからクローバーを持って帰るために摘み取ろうとした。
その時だった。
更なる発見が続いた。
クローバーが密集している一画に目立つ黄色。
顔を近づけてみると、それはギターのピックだった。僕には見覚えがあった。
だいぶ前に行方を見失った一枚。
どこにいったのか分からないまま数ヶ月。
探そうともしなかった。
ピックはまだ劣化していない。
僕はそれを拾い上げた。
すると、聴き慣れない音楽が流れ始めた。
背中の方から賑やかに呼び掛けてくる。
その音は自販機が奏でていた。
どうやら当たったらしい。でも今頃?。
僕は少し慌てながら、さっきと同じヤツを選んだ。
そして放置していたヤツと二本取り出そうとした時、今度はお釣りが出て来る音がした。
まさか。
蓋の無い取り出し口を覗くと、十円硬貨が三枚。
途中で引っ掛かっていたのだろうか。
それが今になって落ちて来たということか。

 

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硬貨を掴み出しながら、僕はクローバーの葉を思い浮かべていた。
三枚の硬貨と一枚のピックで四つの葉。
それから考えたことがある。

もう一度、ギターの練習をしてみよう。 

今日の僕が行くべき方向。
それが決まった瞬間だ。 ~終わり


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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『今日の行方』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
※物語はブクログのパブーにて電子書籍として配信しています。KindleKoboからも配信中!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【画】
■タイトル(Title):『今日の行方~SCENE1&SCENE2』
■作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
■制作年:2008
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
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