読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Pride and Dust World(HTN)

かつてない時代を生きている「今」だからこそ、伝えたいことがある。

そこから見える/樹の下で休憩

そこから見た景色は、
少し怖い気もする。
ロックを外し忘れたドアを開けようとした時、
右手に伝わる衝撃。

それは警告。

「何か忘れてないか」
「何を焦っているんだ」

部屋の外に出てから気づく空の機嫌。

食べ終わったから、
衣をまとって、
この住処を離れる。

またここに戻って来るまで、
何をしていたのか。

かつてない時代を生きている今、
街のスタイルを変えるくらいの気持ちで自分をもう少しマシにしなければ。

短い物語P&D『月で逢いましょう』

『短い物語P&D』は、とても短い物語と、それを表す絵画で構成されています。
連載ではなく、一話完結です。

日常という現実。
空想してしまうという現実。
夢を見るという現実。
それらが混在する混沌とした日々から生まれた物語。
時には共感できないエンターテインメント。

「かつてない時代を生きている今だからこそ、伝えたいことがあります。
当公演にアンコールはございませんので御了承下さい。
それでは間もなく開演です。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
□短い物語P&D『月で逢いましょう』

 

ふたりの老人がいた。
若い頃、ふたりは東へ上った。
コンビで仕事を始めた。
いくつかの大切な物を失くしながら、苦労と喜びを経て成功したふたり。
長い間、ふたりは世界を駆け回っていた。
けれど、ある時、突然別れてしまう。
その頃の二人は、「人生の答え」を考え始めていた。
話し合いの結果、ケンカ別れではなく、前向きな別れとなった。
それから時間の河は万里を越えるように流れた。
離れたまま遠くどこかに運ばれたふたりは、再会することなく人生を終えようとしていた。


それまでの道程とは違うひとりで歩く道程は、共に順調だった。
多くの慈善事業に関わり、世界に印象的な足跡も残した。
時には数字に苦しめられながらも、それぞれの最前線に立った。
そして、さらに働き続けたふたりは、再び夢を抱いた。
どうしたって夢を見てしまうという現実。
ふたりの羅針盤は、年老いても輝いていた。
人生の終章のどこかで、大きな旗が掲げられようとしていた。

 

 

f:id:pride_and_dust:20170222125746j:plain


「月へ行きたい」

同じ夢だった。
ふたりは持っている全てを、惜しみなく投入した。
月へ行くための乗り物が建造開始。
それは世間に公にされることなく、大切な花を育てるように進められた。
ふたりにとっての史上最大の作戦は、真昼の月も知らない。
夜の月にも秘密。
そして、お互いの所在を知らないまま、ふたりの夢は開演に近づいた。


あれから30年余り。
ふたりは、それぞれの部屋で、ベッドの上。
年老いて、両足は疲れてしまった。
長い旅の途中にあった出来事を、たくさん忘れてしまった。
お互いのことですら。

そんなある日の夜、ふたりは月を見上げていた。
ひとりには、月が近づいたみたいに大きく見えた。
もうひとりには、月が何か言っているように見えた。

「なぜ月へ行かなければならないのだろう」

月明かりの下、ふたりは記憶の中をかき分けながら、ひとつだけ思い出した。
月の力で深い底から引き上げられたようなひとつ。
埃にまみれてはいたが、鼓動を感じた。

それは、いつかの約束。
別れるずっと前のこと。


ふたりの夢は、月へ行くことではなかった。
ふたりの交わした約束は、月のステージに立つこと。
それは、またふたり並んで歌うこと。
そんな約束を思い出しながら、ふたりは一緒にまぶたを閉じた。 ~終わり


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【画】
□タイトル(Title):『月で逢いましょう』
□作家名(Artist):環樹涼(RYO KANZYU)
□制作年:2009
□技法:ボールペン
□作品サイズ(縦×横):B4サイズ相当の画用紙を使用。
           縦19cm × 横14cmの枠内に描画。
□販売価格:非売品